sketch/2016.1.6.その2【昨日よりも肩がすくむ】

 吉祥寺の路地を行くと未だに、ある時代の記憶が鮮明だ。何度も通った道の脇の奥に、一度も降りた事のない階段がある。とあるテレビ番組で、はっぴぃえんどのアナログマスターテープを再生していたスタジオだ。機材のごった返す階段室を下りてスタジオに入る。リクオさんのデータをコピーしていると「新譜の盤、まだだったよね。」と、近藤さんの優しい笑顔に遭遇。私の恩人の1人だ。奥のスタジオに居る栗原さんにも挨拶をして、再び階段を上がる。こちら側から通りを眺めるのは始めてだ。見慣れた通りにまた新しい景色が加わる瞬間、である。そしてまた駅まで歩く。ハバナムーンの前を通るのは寂しいので辞める。吉祥寺には、そんな場所がちらほらある。この町を愛した沢山の人にとって、そういう町なのだろう。ヨドバシカメラで充電していたiPhone4sを回収し、再び杉並のアトリエに向かう。ちょっと高い魚屋でマグロのカマを買い、酒屋にも立ち寄る。私の傷には決して良くないであろうビールも買い、夜道を歩く。ハバナムーンがやっていたら一杯ひっかけていただろうなぁと思いながら。


 冬らしい冷え込みではないが、昨日よりも少し肩がすくむ。


 


登場人物:近藤さん(近藤研二)元、栗コーダーカルテット、2355の音楽監修で、私を佐藤雅彦さんに推薦してくれた恩人/栗原さん(栗コーダーカルテット)/リクオさんはリクオさん/ハバナムーン:店主が口うるさくて優しい店だが今はもう無い