sketch/2014.9.22

 


八王子美術館で出会った一枚のポスターに描かれた風景。
ある家の、庭から縁側を望む景色に、しばらくボーッとした。
「背景が語る」と書かれたポスターに理想の家を見た気がした。夏のある日のこと。山本二三さんの背景画だった。


【山本二三(やまもとにぞう/1953年-)。アニメーションの美術監督・背景画家】


 そして今日、静岡市美術館で行われている、山本二三展へ。展覧会は9月23日までだった。せっかく静岡へ行くのに、実家へ寄る間もないスケジューリングだったけれど、行けて本当に良かった。


僕が見たポスターの絵は、2006年公開「時をかける少女」の主人公の家の縁側の風景だった。その作品を見た事はあったれけど、覚えていなかったので、作品を見直した。その場面はあっけないくらい一瞬だった。
そんな一瞬だけの為の絵に、僕は心を奪われた。「未来少年コナン」「名探偵ホームズ」「じゃりんこちえ」「火垂るの墓」「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」など、これまで見た事のある作品の数々。
アニメーションの世界のことはよく分からない。でも、山本さんの描く背景によって、明らかに物語も登場人物も、より輝きを増しているのだった。これまで、【背景画】という視点で作品に目を向けたことは無かったけれど、物語の一部として【背景】を感じていたのだと思う。その感じていた部分に、とんでもない衝撃を受けた。ストーリーの中での一瞬の背景は、感動的なくらい、とんでもない効果をもたらしていた。


展示室を進むに連れて、僕の中で釈然としない何かがはがれ落ちて行った。


僕はよく、一瞬の風景と感情の描写を歌にする。
もともと移ろいやすいから、そんな一瞬の感情の中で、普遍的であろう所を汲み取って、
どんな時代の自分でも歌えるように、言葉を選んで曲を書いて来た。
しかしそれが、歌の力として、足りない事も感じていた。


でも、今日の沢山の背景画を見て、それで良いと思った。
そこに登場人物が現れると、時間が動き出すのだった。


僕は、瞬間を2、3分に引き延ばす。
その数分間は、誰かの人生を彩る魔法のような時間になるかもしれない。
僕の作る歌は、誰かの背景のようにそこにあるだけでよい気がしている。
あるいは僕自身もまた、その歌の客人で在りたいと、思うのです。
そんな風に歌と共に在りたい。



今は新しいアルバムの構想に入っている。
歌詞のないメロディーが山ほど入っているボイスレコーダー。


イマジネーションは世界に溢れている。
そこから沢山頂き物をする。
ありがたく頂いて、誰かの心に触れる歌を歌いたい。


山本さんに、いつかお会いしたらお礼を言いたい。



2014年 秋のはじまりあたりのこと