sketch/2015.12.18【スターウォーズ】

四年に一度、どこからともなく現れるサッカーファンのように、にわかスターウォーズファンの私はいそいそと公開初日のレイトショーに出かけた。にわかと言っても、高速移動のシーンに魅せられて早26年。地域で唯一のレンタルビデオ店TSUTAYAが、小学校の頃すでに実家の徒歩圏に存在していた恩恵はあるにせよ、何度もビデオを借りて観ていた。図書館のレーザーディスクにもお世話になった。なのでにわかと言っても、子供の頃から好きなんだぜ!というプライドだけは高くそびえ立ち、始めて組んだバンド名はR2という、イタい経歴の持ち主である。


 にわかファンの私はシリーズを一つも観た事の無い連れに、フォースのダークサイドが何たるかを説明したり、上映後「あれがオビワン?」とか言われると一瞬イラっとくるが、(そもそもオビワンは本編に出ていないし、もう死んでいる)「あれがルーク。ジェダイの正装は柔道着がモチーフになっているから、同じ格好なの。」と親切丁寧な説明も出来る。しかし「ハリウッドで始めて黒人を起用したのがスターウォーズなんだよね。」とか言い始める強者を前にすると、もうお手上げである。一時期はせっせと集めていたフィギアやグッズも随分前に処分してしまった手前、もう自分の中のスターウォーズに対する想いを熱弁する資格さえ無い様に思えてならない。マクドナルドに通い詰めて揃えたボトルも、ペプシのキャップも、地方で古いおもちゃ屋を見つけると掘り出し物が無いか必死になっていた頃も、遠い過去の記憶。最後まで残しておいたR2-D2のフィギアも行方知れず。


 というわけで、ここ暫く何年も私のスターウォーズ熱は影を潜めていた。セブンイレブンが騒ぎ立てているプロモーションが目に入ってもどうってことなく、安っぽいグッズを見ては尚更にスカしていた。当然、映画を観る前まではフラットな精神状態を保っていた。しかしながら、幕が上がり、黄色のアルファベットが銀河に吸い込まれて行くお約束のオープニングが始まると、今が歴史的瞬間なのだという実感が瞬く間に巡ってきた。アルファベットがすべて銀河に吸い込まれ、「くるぞ、くるぞ、下にパンして、宇宙船がくるぞ~」という期待が的中する頃には、すっかり座席から身を乗り出していた。


 ハン・ソロの現れた瞬間などは、「彼のハワイ島の別荘を遠目に眺めた事があるんだぞ俺は!!」などと訳の分からぬ親近感を抱き、レイア姫が登場したときなんかは「レイア姫以外でこの女優を見た事があったか?やはりレイアはレイアだ!」などと感動し、ルークの登場に至っては、何かのパロディーを見ているかのような錯覚を起こし「ここで笑っては行けない!」と、かっぷくの良いルーク・スカイウォーカーを肯定する事にとにかく徹した。


 進んだ現代のテクノロジーに屈する事無く、シリーズ通してのアナログ感や、「っんなアホな!」な脱出劇も健在であり、何よりオリジナルの登場人物が30年以上経っても揃っている事態が涙もの。はっぴぃえんどがオリジナルメンバーでステージに立っているようなものだ。ルークが私の想像を裏切ってくれた事なんかはどうでもいい。むしろ愛着は増している。


 四年に一度、どこからともなく現れるサッカーファンのように、にわかスターウォーズファンの私はいそいそと公開初日のレイトショーに出かけた。入間の映画館で、こんなに人が入っている状況に遭遇することは始めてだった。駐車券の精算機は10人程の大行列を見せ、映画のグッズを買い求める人が、一坪程のコーナーに溢れかえっていた。エレベーター前はごった返し、最高でも2回は待たなければ乗れなかっただろう。しかたなく非常階段で8Fのパーキングへ向かった。


「じゃあ、あのマスクの人がアナキン?」連れのすっとんきょうな質問にも一瞬イラっとするが、「アナキンはダースベイダーで、あのマスクはダースベダーの娘の息子なの!」と、親切丁寧な説明が階段室に響き渡る。


 私の右手にはパンフレット。過去、幾度となく廃品回収の候補に上がっては難を逃れてきた全6タイトルのパンフレットに、今夜めでたく仲間入りするのだ。