sketch/2016.1.5【怪我の功名】

うららかな日が続く。白髪のご老人と、二日連続同じ路地で、同じ時間にすれ違う。腰はぐっと曲がっているが、お化粧や身だしなみは完璧だ。前へ進むのに一生懸命で、私の小さな挨拶など耳に届かないほど真剣な表情をしている。そんなご老人に私の心は無条件降伏し、いつでも手を差し伸べたいという気持ちになる。おかしな話だが、自分の優しい心に胸を打たれると、まだまだ私の心は平気だなと思う。左手の傷が痛む。すべてがこれまでよりもゆっくりとしたペースで行われている。時間の流れも、ここ数年で一番ゆったりと流れている。