「笹倉さん、禿げてますよ。」
分け目が白いのが、彼の言うハゲらしい。
私はデコが広いし剛毛な方では無く、猫っ毛でもあるため、二日も髪を洗わなければ頭はペタンコになる。そんな時は気になるので帽子をかぶる事にしているが、昨日は風呂に入っているし今日の髪も自己採点ではふんわりとしている。にもかかわらず、ハゲとか言われるとムカッとくる。というか、動揺する。
父親は確かに禿げているが、私は母親似だ。ハゲの隔世遺伝でよく言われる母方の祖父は、晩年もふさふさであった。しかし、ここ最近の私は頭皮に良くないとされる長髪で、さらに髪を結っている。ただでさえボリュームのない髪質に追い打ちをかけるような髪型なのだ。
その場に居合わせた人間も、その一言のお陰で一斉にこちらを見る眼差しが変わり、私はますます動揺を隠せない。一人二個ずつのはずの納豆巻きも、動揺の為、三個目に手を出してしまい、さらにヒンシュクを買う始末だ。
「○山◎×もハゲだよね」とか一人が言い出す。私は彼がハゲだなどとは一度も思ったことは無いが、画像検索をすると、そう言わんとする人の気も分からないでも無い。
少なくとも、今日の食卓を囲んだ三名は私の事をそんな眼差しで見始めている。
ちらとカウンターに目を向けてみる。いつもの板前さんにはこちらの会話は聞こえていない様子だが、アフロのボリューム感がまぶしく、今夜もブッダのように神々しい。いや、この場合は仏々しいなのか。まあ、とにかくそんな感じだ。
夜道を歩く。
「ねぇ、ハゲなの?」
連れが私をからかうのだが、それはそれで幸せな夜道である。