sketch/2015.1.3【人は簡単に死ぬ】

 一瞬の出来事に『人は簡単に死ぬな、これは。』そう思った。


 どうすれば数分前に戻れるか?とか、嘘であって欲しいとか、頭が錯乱する。しばらくして、自分自身への怒りがこみ上げる。これまで見た事が無い具合に私から血が溢れ出す。肉の中は丸見えだし、私の身体が壊れてしまったと思った。取り返しのつかない事態に、ちょっとしたパニックだが、実際のところ死に直結する事態ではない。ノミで手の平をざっくりやってしまい、全治2週間である。


 最近見た映画では、負傷した兵士が「くそっ!なんてこった。」と命の最後を悟るシーンがあった。命の最後程ではないが、その片鱗を垣間みた気がした。これまでに、骨折とか大きな怪我や病気経験の無い私だが、もちろん大工仕事でも大きな怪我はしたことが無い。ギターを弾けなくなると困るので特に注意していたのだが、ついにこの時がやって来た。


 過去にギターを弾けなくなった時期は2度あり、一カ所は右手親指の付け根、もう一カ所は左手人差し指の第二関節。それは今でもたまにうずく。(どちらもバイト先の厨房での負傷。)今回は左手親指と人差し指の中間あたりだ。当然ギターは弾けない。そして、観念した。『今月はギターを休む、珈琲店も暫く休む』と。そして幸いにも、今年の私は文筆家であり、キーボードが叩ければ、いや、最悪でも右手でペンが持てれば仕事ができるのだ。滞っているミックス作業にも支障はなく、リクオさんの新作の作業も始まるかもしれない。ギターが弾けなくて、珈琲店が出来ないのはむしろ好都合である。さらに『神はすべてお見通しだ』などと、持ち前のポジティブな思考を展開している。


 私は元気だ、声も良く出る。ミックス作業中にはきっと、ヒロト君やななこちゃん、そしてリクオさんの歌声に合わせて歌うだろう。そして『いいコーラスが浮かんだらそっと入れてしまおう。ギャラは後から請求してみよう。』だとか、そんな冗談まで考えられる程に元気だ。そして、懲りもせず再び大工仕事を始めるのだ。


 三が日の締めくくりは、真っ赤な鮮血の源を見た。私の身体の中が丸見えだった。良くも悪くも毒出しだと思う。そして肝に銘じたい、人は簡単に死ぬのだと。