sketch/2015.2.22

現状に満足していると、落とし穴に落ちる。今、過去の自分にずいぶん救われている。 歌いはじめて間もない頃、父親と高田馬場の小料理屋へ行った。僕は曲があふれる様に出来ている事を自慢げに話した。親父のリアクションはそんなになかった。ただ、ビールのグラスを傾けながら、こう言った。「そういうものや、自分のメモは大切にしておきなさい。いつか自分を助けてくれるから。」と。始まったばかりの若者には響かない。そういう言葉だった。もうかれこれ10年以上会っていない。何度か着信があったが、折り返していない。海外に居る噂を聞いたが、確かめていない。交わした言葉は少ないけど、その言葉はおおきな贈り物になった。  時々、落とし穴に落ちる。そんな時、ふと浮かぶのは、あの小料理屋の景色。僕は煙草をふかして、いかにも人生が始まったような気でいた。  あれから、ずいぶん時が行き、様々な職を転々としたけど、歌は続けている。何年か前に一度、その店を探したけど辿り着けなかった。思い出しては忘れ、また思い出した言葉だから、きっとまた忘れてしまうと思う。彼は40歳で直木賞をとっている。僕はあと6年で何ができるだろうか。今日もまた、過去の自分に救われてしまった。