sketch/2016.3.7【濃霧の夜】

 夜の電車に揺られるのは久しぶりだ。ベッドタウンとは逆へ向かうのだからがらんとしている。


 暇そうな夜の電車に揺られると、高校時代の帰宅電車を思い出す。


 23時ころにJR富士駅を出発する終電車。そこそこの乗車率だが、駅の度に減ってゆく人。私の下車する西富士宮駅から先は山の中である。


 当時、自動改札機の導入も随分遅れていた。駅のホームを改札とは反対側に飛び降りてしまえば問題なかったし、切符を無くしたと言う若者が、毎晩のようにキセルを繰り返していたであろう時代。


 ポケベルの登場から今夜までを漠然と考えながら電車に揺られる。


 5年も前のスマートフォンだが、目的地の停留所までを丁寧に教えてくれる。タッチパネルの反応が鈍く、10秒程のレイテンシーにイライラしていた私だが、そのくらいおおらかに待っていたい。


 『オハヨウ』というメッセージを送る為に公衆電話の列に並んでいた事を考えると、この先ずっと今の携帯電話で不自由な事など無いだろう。


 携帯電話が教えてくれた到着予定時刻を5分くらいオーバー。


 私を待つ人には予定時刻を告げてあるので、なんとも言えない感情がよぎるが、誰のせいでもない。


 濃霧の夜。